七十二候 第1初候春分

雀始巣

すずめはじめてすくう

春分

雀始巣

0.0°

自然の観察

雀が巣を作り始める

この候の過ごし方

新しい住まいや環境を整える好機。巣作りのように、身の回りの整理整頓を心がけると運気が上向く

雀始巣 の物語

立春の朝、空気の中にひと粒だけ、冷たさのほどける音が混じる。七十二候の第一候「東風解凍(はるかぜこおりをとく)」は、その一粒を聞き取ったところから一年が始まる、と古暦は言います。雪はまだあるのに、氷の上を吹く風だけが、もう冬のものではなくなっている。そういう日のための候です。

名前の景色 ── 東から吹く風が、氷をほどく

「東風」と書いて「はるかぜ」と読ませる、この当て字は古い和歌から来ています。東の方角は、五行思想で春に対応する方位。だから東から吹く風は、季節そのものの先触れとされてきました。冬のあいだ、太陽は南へ南へと低く動いていた。立春を境に、太陽は東の地平線をしっかり登り、東面の空気をまず温めはじめる。風はその温まった東側から、まだ凍ったままの西側に向かって動きます。それが、川の薄氷をほどく最初の一吹きになる。

ここで重要なのは、東風は「春を運んでくる風」ではなく、「氷をほどくだけの風」だ、という古人の解像度です。まだ春は来ていません。氷だけが、わずかに緩む。新暦の暦帳には書かれない、その小さな温度差を、七十二候は最初の一行に置いた。この控えめさが、七十二候という時計の品の良さです。

暦の中での位置 ── 太陽黄経 315°、二十四節気の起点

二十四節気の起点は「春分(黄経0°)」ですが、七十二候の起点はそこから 45° 巻き戻した「立春(黄経 315°)」です。理由はシンプルで、農事の段取りは「春になってから動く」のでは遅いから。土壌の準備、種の選別、苗床の温め直し──春分の桜より前に終えておきたい作業が、立春の頃から始まります。

太陽黄経が 315° に達するのは、2026 年は 2 月 4 日。そこから 320° までの五日間が「東風解凍」の暦上の幅です。南緯にある国々と違って、日本列島はこの時期まだ平均気温が 5℃ 前後。物理的にはまだ冬の延長線上にあります。それでも候の名前に「春」が入る。これは観測ではなく宣言です。「ここから、こちらは春の側のリズムで動きますよ」という暦の宣言。

この候の過ごし方 ── 「ほどく」前提の五日間

東風解凍は、何かを始めるための候ではなく、何かをほどくための候です。冬のあいだに固くなった習慣、長くなった会議、止まったままの机のうえの書類。それらの「氷」を、ここでひとつ薄くする五日間として使うのが筋。

  • 年末年始に放置したままの未返信メールに、一行だけ返事を入れる
  • 「来年こそ」と書いた一月のメモを、もう一度開いて並べ直す
  • 一度落ち着いた人間関係に、軽い春の挨拶を投げてみる
  • 動かなくなったプロジェクトを、ゼロから組み直さず、一行だけ書き加える

立春は新年の節目ではあっても、リセットの候ではありません。古暦の春は、続いてきたものをほどいて、もう一度動けるようにする季節です。ここで一気に何かを刷新しようとすると、まだ氷が硬すぎて折れます。東風はそっと吹く風だ、ということを忘れないことです。

まいとの一言 ── 春は、宣言から始まる

ご利益テクノロジー研究家として、毎年この候の朝には小さな習慣をひとつだけ作るようにしています。内容は何でもよく、続けるかどうかも問わない。ただ「春側のリズムに乗る」という宣言として、一行だけ何かを動かす。立春の風は、宣言した人の机の上にだけ届く、不思議な性質を持っています。

東風解凍は、暦の中でいちばん「祈りに近い」候かもしれません。氷はまだ完全にはほどけません。それでも、こちらが春側に立つと決めれば、風は確かに吹きはじめます。

— ご利益テクノロジー研究家 まいと

太陽黄経と季節

節気
春分しゅんぶん
太陽黄経
0° 〜 5°
季節
期間目安
約5日